当院の糖尿病治療方針と実績
(1) 可能な限りHbA1cの管理目標値*を達成し、長期間維持できる治療を。
95%以上の患者様がそれぞれのHbA1c管理目標値を達成#1。(図1,2)
* HbA1cの管理目標値 :当院では、一般社団法人日本糖尿病学会のガイドラインに従い、最低限「合併症予防を目指した7.0%未満」を、さらに可能な場合は「血糖正常化を目指した6.0%未満」を目標とした治療を行っています(1)。ただし、65歳以上の高齢者の場合は、患者様の病態・病歴・背景などを考慮し、同学会と日本老年医学会の合同委員会の「高齢者糖尿病診療ガイドライン」を参考に、一人一人の患者様と相談の上で、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を適応した緩やかな目標を設定する場合もあります(2)。
(図) 当院通院中の糖尿病患者様の (1) HbA1c値の推移、(2) HbA1c管理目標値との差異の推移
(2) 生活習慣改善のサポートを優先
食事・運動習慣の改善が第一義的治療です。
初診時に内服薬を処方するかどうか、インスリンを使用するかどうかは、HbA1c値や血糖値によって決定されるものではなく、患者様一人一人の病型(1型、2型など)や病態(膵臓からインスリンが十分に出ているかどうか、出ているインスリンは効いているのかどうか、合併症がどの程度進行しているかなど)、あるいは生活の背景などによって、個別に決定されなければなりません(3)。
このため、当院では、約50%の2型糖尿病患者様には、初診時に内服薬やインスリン注射を処方せず#2、食事や運動習慣の見直しで経過を観察してみることをお奨めしています。また、初診後一度も薬や注射を使用せずに、食事・運動療法のみでHbA1cの管理目標値を達成し、その後6か月以上維持できている患者様の割合も、当院に通院中の全2型糖尿病患者様の約10%程度#3 にのぼります。
HbA1c管理目標値達成のために、やむなく薬や注射を使用されている患者様の場合にも、継続的に食事・運動療法をサポートします。特に、肥満2型糖尿病患者様の場合には、食事・運動習慣の改善による減量と内臓脂肪減少が病態の根本的な改善につながります。生活習慣の改善を基盤に置いた治療を計画し、それを継続することで、薬や注射を最低限に抑えられるように努めています。
1型糖尿病患者様の場合も、患者様一人一人の生活背景(年齢や生活リズム)や病態(肥満の有無など)、それぞれの食習慣などに応じて必要な指導やサポートを行います。可能な場合は、カーボカウンティングの習得を通じて、食事に合わせてインスリン注射を調節し、「普通の食事」の継続が可能となるようお手伝いします。
(3) 可能な限り外来通院で血糖コントロールを完結**。
我が国の多くの糖尿病専門施設(大病院や専門病院)では「糖尿病教育入院」が実施されていますが、糖尿病専門施設への1~2週間程度の教育入院により、入院中の「血糖コントロール」は改善したものの、退院後すぐまた血糖値が高くなってしまったとか、入院を挟んでも結局それほどHbA1c値が改善しなかった、などの経験をお持ちの方も少なくありません。カロリーや糖質がコントロールされた病院食とインスリン注射などの強力な治療により入院中の血糖値が下がるのは当然ですが、専門医の手を離れてしまった退院後の血糖管理に不安を感じておられる方も多いと思います。当院では、外来通院だけで、長期にわたる血糖管理と合併症予防に責任を負いたいと考えています。
20年以上にわたって大学病院や急性期病院で「糖尿病教育入院」に携わって来た経験に基づいて、当院では教育入院と同等の療養指導を実施できるスタッフとシステムを整備しています。多人数対多人数の「集団指導」を入院中の1-2週間だけ集中的に行うよりも、一対一での「個別指導」を外来診療ごとに繰り返し行う方が、患者様一人一人の生活習慣や病態に即した個別指導が可能となるため、実効性・継続性の両面において優れた治療が継続可能となるのです。
**意識障害を伴うような糖尿病性ケトアシドーシス・高浸透圧症候群・遷延性低血糖症など、入院での管理が必須の患者様については、適宜、遅滞なく連携病院へご紹介しますが、現在、一般的な「糖尿病治療」や「血糖値管理」は、外来診療だけでほぼ完結可能となっています。このため、意識障害がなく「歩いて」当院を受診された患者様について、「糖尿病治療」や「血糖コントロール」を目的として、他院への入院を依頼する紹介状をお出しすることは、原則的に行っていません。
一方で、脳血管疾患や心筋虚血(心筋梗塞・狭心症)など大血管合併症の評価(頭部CT・MRI、心臓CTや心臓カテーテル検査)が必要な患者様や、その他の疾患が疑われる場合には、必要に応じて、速やかに連携医療施設への紹介状を作成させていただきます。
(4) 可能な限りインスリン注射のない治療
インスリン皮下注射の使用をできるだけ後回しにしています。
長期間インスリン治療を継続していた患者様では、その必要性を再評価し減量や内服薬への切り替えに努めます。
最近10~20年の間に、我が国の糖尿病治療を取り巻く環境は大きく変化し、現在日本では7種類の経口糖尿病薬が使用可能となっています。例えば1990年のわが国では、経口薬2種類と複数のインスリン注射だけで糖尿病治療が行われていました。20年前に使用できた経口薬は3種類だけ、10年前でもまだ5種類だけでした。使用できる薬の種類が限定されていた当時は、当然血糖管理の考え方や治療計画自体も現在とは大きく異なり、達成点もそれなりに限定されたものになっていたわけです。10年前あるいは20年前のスタンダードな治療法に基づいて、当時インスリン注射の開始を余儀なくされた患者様の場合でも、現在の医療環境に照らして見直した場合には、異なる治療法が適用できるケースが実は少なくはないのです。
2型糖尿病患者様の場合、血糖コントロールにインスリン注射が必要なのかどうかについては、「膵臓がインスリンを分泌する力をどれほど残しているか」が大きな鍵となりますが、一日複数回のインスリン注射を必要とするほどこの能力が低下している2型糖尿病患者様は、実はそれほど多くはありません。
数年~十数年にわたってインスリン注射を続けておられた2型糖尿病患者様でも、当院に来られてからインスリン注射を中止できた方や、注射回数を一日一回まで減らせた患者様が非常に沢山おられます#4。実際に注射が必要かどうか疑問な方やできれば注射を止めたいと思っておられる方は、是非一度ご相談下さい。
(5) できる限り、待ち時間を短縮します。
大病院や専門病院と地域のクリニックでは様々な面で設備や役割が異なります。高度な医療器材と多数の医療スタッフを揃えた大病院は医療の質もより良いと思われがちですが、糖尿病をはじめとする生活習慣病の治療については、若干事情が異なることもあります。
多くの診療科に来られる大勢の患者様の血液や尿検体を中央検査室一カ所で一斉に測定する大病院の場合と、一診療科の患者様の検査を順番に測定する当院の検査所要時間を比べると、後者の方が短時間で済むのは当然です。前者では、採血までの待ち時間に加えて、採血・採尿が済んでから検査機械にかかるまでの間にそれなりの待ち時間が生じるからです。当院では、血糖値、HbA1c値、コレステロール・中性脂肪や肝・腎機能などの検査が、採血後約30分程度で完了できます。
次に、網膜症、腎症、神経障害、動脈硬化症などの糖尿病合併症に関しては、できれば初診時一回目の診察機会の中で十分な評価を行える施設が理想です。合併症の状態によっては、血糖値を下げる速さを調節する必要がある場合もあり、また、合併症の進み具合は当然投薬内容にも影響します。網膜症の評価のための眼科受診や様々な生理検査が必要なのに、大病院では受診当日の予約が取れずに日を改める必要があることも。これでは、適切な治療を初診日から速やかに開始することができません。
また、当院では、できるだけ初診当日に、管理栄養士による栄養相談を受けていただくようお奨めしています。生理検査や眼科受診と同様に、大病院では受診当日に栄養相談の予約が取れずに日を改める必要があることも。これでは、適切な食事療法を速やかに開始することができません。
当院では、血液・尿検査、合併症や病態の評価に必要な生理検査から、医師による診察と説明、管理栄養士による栄養相談、看護師・検査技師による療養指導までを、すべて受診当日に完了し、必要な治療や指導を速やかに開始できるようなスタッフとシステムの整備に努めています。
(#1~4 初診後6か月以上継続して通院された患者様での統計、2018年4月末現在)
参考文献・URL
(1) http://www.jds.or.jp/modules/education/index.php?content_id=11
(2) http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=66
(3) 糖尿病診療ガイドライン2016, pp 83-84 (編・著) 日本糖尿病学会. (文光堂、東京)